ぶるぶる

人には「心を動かされる瞬間」というのがたびたび訪れますね。
その瞬間は大小様々で、その影響で自分の進む方向を変えたり、同じ進路だけど加速がついたり、塞がっていた壁をぶち破ったりすることがあります。


僕にとって印象深い「心動かされる瞬間」が2つあります。
一つは大学時代に「データマイニング」に出会ったときです。

金鉱を掘り当てる統計学―データマイニング入門 (ブルーバックス)

金鉱を掘り当てる統計学―データマイニング入門 (ブルーバックス)

この本がテキストだったんですが、心が動いたのはデータマイニング本論のほうではなく『パラダイムシフト』の概念を学んだことです。(もちろん、本論も刺激的だったんですが。)


データの取得コストが激減していくに伴って、従来の中小標本を基にした統計理論が適用できなくなり、それに対応するために異なる分野の技術を応用していく。その技術も限界を迎え、新たな技術で克服されていく。
そうしたパラダイムシフトの波が世の中には重なっているのだ。
その中で自分はどのように泳いでいくべきなのか。


物事を見ていくときの視野が劇的に変わった瞬間だったように思います。
実際、この分野を勉強し始めたときは全く進学など考えていなかったのですが、「波の中で溺れにくくなる」ための知恵を鍛えるために進学することを後に決めました。


もう一つは、入社後3年目くらいに聴講したJMA(日本マーケティング協会)の講演でした。
テーマはクロスメディアで、当時、電通さんが積極的に提案しはじめたころでした。
これとかが出たときですね。


クロスイッチ―電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた

クロスイッチ―電通式クロスメディアコミュニケーションのつくりかた


そのときにクリエイティブ・ディレクターの高松氏がお話されていました。
見た感じなんかカッコイイ方で、「クリエイターとか広告関係の人って別世界の住人だよねぇ」と感じたものです。
(今でもオシャレな感じな業界の方とか気後れしてしまいますが。)
そのときに、日清カップヌードルの「FREEDOM」や「おしえて!Goo!」の事例とか紹介していて、非常にロジカルにコミュニケーションの動線が引かれているのに驚きました。
前述の「クロスイッチ」とかは結構メカニカルな構造なんですけど、もっと繊細なんだけど頑健で、血の通った動線な感じですね(非常に感覚的ですけど。)
面白いなぁ、こういう仕事ってワクワクする。
どうしてこんな魅力的なんだろうな、と思いました。


そのときに高松氏は「クロスメディアコミュニケーションをしようと思って動線を書いたわけじゃなくて、一番最適な形を考えたらこうなった」みたいなことを仰っていました。
それを聴いたとき、なんか電撃が走りましたね。
あぁ、小手先の技術とかそういうことじゃなくて、頑健性が高い知恵が中に通っているんだなぁ、と。
よく考えられているものなんだ。それが形にできるかどうかが重要なんだ。
これって、クロスメディアに限ったことではなく、「色々な仕事の本質」なんだろうなぁ。


自分に圧倒的にないものを見た気がして、なんだか興奮した記憶があります。
冬の講演だったんですけど、コートを羽織らず六本木を歩いた気がします。


同じ本を読んでも、同じ講演を聴いても、違う人であれば、同じように感じることはないでしょう。
でも、これらで感じたことは今の自分を形づくっていることは間違いないと思います。


パラダイムシフトと頑健性。
この2つの、あるところでは相反する視点は、ぶるぶると心が動いた瞬間と共に、自分の「フィルター」として機能するようになったのだと思います。