明日のコミュニケーション


コミュニケーションデザイナー・佐藤尚之(さとなお)さんによる「明日の広告」につづく著書です。
ソーシャルメディアが登場、普及しつつある中での、コミュニケーションデザインのあり方について説かれています。


本書が類書と一線を画しているのは、理解しやすい語り口です。
単純に平易な言葉を使っているだけでなく、(特にソーシャルメディアを普段から利用している人ほど)ソーシャルメディアの効用について気づきを生むように、理解しやすい歩幅で書かれているからだと思います。


以前より著者が提唱しているソーシャルメディアが存在する中での生活者行動モデル「SIPS」についても細かく解説されています。
僕自身も日本マーケティング協会での佐藤さんの講演などで概要は知っていましたが、本書はそこに込められている深い意図や広がり理解するのに役立つと思います。


本書を読みながら「ソーシャルメディアを利用する立場」「コミュニケーションデザインを企画する立場」「ソーシャルメディアを利用したコミュニケーション施策を評価する立場」などの視点が色々と自分の中で交錯するように感じました。
最後の立場はリサーチ会社の人間、というより定量的な測定を生業にしている人間が共通して持っている視点でしょう。

ソーシャルメディアが普及していく世界では定量的な測定なんてできないし、そもそもいらねーよ」と言われる方も多いのではとも思います。
僕自身も漠然とそういうこともあるのかなぁ、という思いがありましたが、本書を読んでいくと「うーん、従来とは『測定の持つ意味』が変わるかもしれない。でもやる必要はあるようなぁ。」と感じています。
従来は個人間相互作用の測定をリサーチデータでされることはありませんでしたが、その測定に意味が持つ時代がきているのかもしれません。
(これを実行していくにはより多くのスキルを持ったプレーヤーがリサーチにも必要になってくるでしょう。)
また、従来の測定はPDCAサイクルを想定したシステマチックな流れの上で行われるものでした。その上で重要な評価指標であるKPIの設定や評価サイクルにも従来とは異なる評価軸がふさわしいのかもしれません。
また、本書の中でもSIPSモデルは従来のファネル型ではなく、ベル型のコミュニケーションに近いという話題がありましたが、測定方法としてもパネル型のリサーチシステムから飛び出した発想が必要だと思います。
リスニングプラットフォームへのシフトの必要性がここで初めて出てくるのかもしれません。


まぁ、個人的な雑感としてはこんな感じですが、読者各々の立場によって考えたり、気づくことは様々でしょう。
本書はそうした着想を与えてくれる良書だと思います。
著者も述べているように「今まさに変化しつつある」分野なので、なるべく早く手に取ると良いかもしれませんね。