医療現場の行動経済学:すれ違う医者と患者

 

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

医療現場の行動経済学: すれ違う医者と患者

 

 

行動経済学の知識を「現場でどう適用するか」を知る上で本書を手に取った。

 

シェアードデシジョンメイキングの文脈や医療者自身に生じるバイアスについて、事例を交え、分担執筆で展開される。

 

ja.wikipedia.org

 

 

本書では、医療、とくに自身の生死と直面する状態での意思決定という「大変重い意思決定」においてどのような事態が生じ、行動経済学の知見がどう「よりよい」意思決定を支援しうるかを追うことができる。

 
事例は大変生々しい。多くの章では、診療現場で生じるコンフリクトをあげて、行動経済学の観点からどのようなバイアスが生じているかを分析し、どう患者のよりよい選択をつなげるように、場合によってはどのようにナッジを利用しながら進めるか、を提示している。
 
本書の中でも直接・間接的に言及されることであるが、患者にとってよりよい選択は一様ではない。
 
検診受診率を高めるような働きかけの是非は比較的ナッジの利用の有効性を支持しやすいと思う。が、生死を分ける場面でナッジを利用することには様々な考慮すべきことが存在する。
患者本人、家族の思考・思想は多様であり、そして肉体的・精神的に時間経過とともに変化をしていく。合理性の観点からは有用であることは理解できるがゆえに、適用への答えは容易ではない。
 
一方で、各場面で生じうるバイアスを理解すること自体が状況を改善する上では有用であろう。
生じるバイアスを踏まえ、患者・家族の状態・思考の理解につとめた上で、対処やコミュニケーションの設計をしていくことにつながる。
(この重要性はもちろん医療に限ったことではない。)
 
いつ患者当事者になりうるかはわからないが、大変身近な例で考えさせられると同時に、自身の仕事上で発生しうるバイアス理解と解決のあり方のヒントが得られたように思える。